チェルシー・センディ・シーダ

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※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。

RoleModel3チェルシー・センディ・シーダ

大切なのは世界についての好奇心を絶やさずにいることです

明治大学政治経済学部  特任講師 チェルシー・センディ・シーダ

【ご自身のキャリアパスについて】

歴史は若い頃に興味があった科目のほんのひとつで、最初に日本に来たのはちょっとした偶然からでした。カリフォルニア北部の小さな町で育った私は15歳の時、留学したいと思いました。父がハンガリー出身だったこともあり、ヨーロッパに行ければいいと思いましたが、地元のロータリークラブの奨学金を獲得した私は、日本のつくばに1年間行くことになりました。カリフォルニア大学ロサンゼルス校に進学して、歴史を専攻していたのですが、ハンガリー・ブダペストに留学しました。卒業後はJETプログラムの下、三重県で2年間働き、名古屋にもしばらく住みました。それからニューヨークに移り、さまざまな仕事を通じて興味深い人たちに出会いました。20代の頃に時間をかけて音楽、絵画、執筆など創造的な興味を追いかけたことは、私の人生の大切な時期となりました。大学院に通い始める頃には、自分自身のこと、そして自分が何をしたいのかを一層深く理解していました。コロンビア大学で最終的に博士号を取得するとき、近代日本史を専門にすることに決めました。ひとつは私が特にお世話になった教授の影響、もうひとつは日本の近代化による問題と戦後の歴史に興味があったからです。ティーチング・プロフェッサーになることも、大学院で歴史を研究し始めたときの目標のひとつでした。おそらく、高校から大学そして大学院まで素晴らしい歴史の先生に恵まれていたからだと思います。

【ご研究内容とその魅力について】

今日私たちが暮らしている世界について説明をする時は誰もが歴史を使います。国の歴史や宗教の歴史、さらには個人の歴史などです。私たちがこうして何げなく考えるさまざまな仮説を検証することが歴史専門家の仕事です。時々、古いとか当然とさえ思っていることが非常に新しいことだったり、また新しいと思っていることが実は非常に古かったりすることがあります。そう遠くない過去も含め、過去に人々がどのように暮らし、考えてきたかを探索していくことで、自分自身や社会のこと、そして実際に人間社会がいかに多様で魅力的であるかについて一層理解が深まります。歴史家は地域の記録から国の公文書まで、長いあいだ注目されなかった文書を調べることがよくあります。これは退屈で孤独な作業かもしれませんが、私にとっては冒険のように感じます。もしかすると延々と似たような文書ばかりかもしれませんが、その中に発見があると胸が高鳴ります。学位論文の研究では、戦後日本の学生運動に焦点を当て、それに加えて女子学生活動家の参加が1960年代学生運動の持つ意味に与えた影響に焦点を当てました。男女の区別が厳格だった戦前の大学。戦後は教育の平等を求める声が高まりその結果、「男女共学」という新しい方針が導入されました。これによって新たな大学文化が生まれ、若い女性も新しい形で大学の過激派運動に参加するようになりました。しかし、社会的正義を広く求めた過激派運動の中でも、男女の違いにもとづく性差別や偏見の例が多く残っていました。女子学生の多くは、学生運動に参加することで政治の参加者として完全に平等になれると考えていましたが、女子学生と女子学生による運動に対する男性活動家やマスコミ、世間の反応は失望するものでした。私の関心は、社会による「女性」「男性」「学生」などの分類と私たちがいかに常に折り合いをつけ、戦わなければいかないかということです。このような分類は、社会が私たちの意見にどれだけ耳を傾けるかを左右し、私たちの政治参加のあり方を規定します。

【現在のご自身の研究環境について】

私は現在、明治大学政治経済学部に所属しています。規模が大きく多様な学部で、ここで同じ研究テーマに関心を持ち、刺激的で多くのことを学ばせてくれる数多くの教授たちと出会いました。この学部は女性の教授が少なく、特に若手の常勤の教員が多くありません。私が研究を行う力に直接影響するものではありませんが、情報共有という点では確かにある程度の支障があります。例えば、子育てや育児休暇のタイミング、生活と研究のバランスについてのアドバイスを求める時、私は学部外の人に頼らなければなりませんでした。もちろん、役立つ情報を提供してくれる新米の父親も学科内にはいるのですが、日本人の教員は私生活についてあまり話をしないように感じます。そういった文化の違いで、重要だと思う情報を入手することに少々苦労することがありました。個人的な問題のほかにも、異なる高等教育制度から来ているために、日本の大学の研究者が利用できる助成金についてはいまだに理解するのが大変です。

【ライフイベントと研究との両立】

2016年7月、夫との間に第一子が生まれる予定です。私たちの生活は大きく変わることになると思います。研究、執筆、講義の話題としてジェンダーを多く取り上げてきましたが、私はこれから「母親」という全く新しい社会的役割を担っていくことになります。今、不安に思うことは、職場復帰後どうやって授乳を続けることができるのか、公共の託児所に私の子どもは入れるのかといったことです。人生の各段階にはさまざまなことが求められます。仕事と生活の両立についてもさまざまな時期で意味が異なります。私は幸い学術研究をいつもサポートしてくれる家族がいます。家族なしでは成功できませんでした。夫も研究者ですが、本当に私のことを応援してくるパートナーです。2人で協力して家事を分担し、互いに大好きな仕事ができるようにしています。

【学生・若手研究者へメッセージ】

研究者の道は大変かもしれません。研究と執筆は孤独な作業で、大学で安定した地位を見つけることもますます難しくなっています。若い研究者には、高等教育の政策に影響を及ぼす政治情勢に関心をもち、研究と学習が社会に果たす役割を守って欲しいと思います。時には本やデータから顔を上げ、私たちが重要だと思う研究がまだ評価されているものであるかを確かめる必要があります。研究者の道はまた、非常にやりがいがあるとも言えます。世界について非常に強い好奇心を持っているのであれば、研究の仕事が唯一満足できるものになるかもしれません。ただ、自分の研究が支持されていると思えるようにしてください。もし教授に評価されていないと感じるのであれば、あなたを応援してくれる人を見つけるべきです。他の研究者とネットワークを築いて仕事でもプライベートでも支え合う関係を作るべきです。そしてもし仕事があまりにも大変だったり、ストレスに感じたりしてしまうのであれば、勇気を持って辞め、他のことを始めるべきです。大切なのは世界についての好奇心を絶やさずにいることです。