佐々木 泰子

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※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。

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低空飛行でもいいから飛び続けてください

明治大学農学部農芸化学科  専任准教授 佐々木 泰子

【好きなことを続けて】

小学校の頃から生物が好きで、高校時代は生物クラブに入っていました。医学部に行きたかったのですが、高校生の時、大きな病にかかり休学していた時期があり、医学部受験を断念したことで、学部時代は若干の敗北感がありました。そんな中でも生物は好きで、面白かったのでもう少し続けたいという思いから東京大学の大学院へ進学しました。大学院に行ってからは体も丈夫になりましたし、とても楽しい大学院生活でした。当時は年間数万円程度の学費しかかからず、奨学金もあったので経済的な負担はほとんど無く進学できたのも大きいと思います。

【大学から企業へ。そして再び大学へ】

私が博士後期課程にいたころ、女子はほとんどいませんでした。研究者としての道筋も見えない中、結婚・出産・子育てというライフイベントを迎え、不安や迷いもありましたが、PDF(ポストドクターフェローシップ)を取ることができ、続いて助手というポスト(農学部の助手も殆どが男性で女子は100人中4人)を得られたこと、また夫の「やめてもいいけれど、やめられたらちょっとがっかりするな」という言葉等が励みになり、辞めずに続けることが出来たのだと思います。助手をしていた頃は、子育てと助手の仕事(雑務も含め)と研究を同時にこなすのが大変で、自分の研究の時間がなかなか取れず、研究者として成熟していかなければならないのにこれでいいのかと悩んだ時期がありました。たまたま夫の勤め先である明治乳業(株式会社明治)で求人が出たので、転職を決意しました。5年間勤めた大学を去り、共同研究者として夫とともに20年以上企業で研究することになります。企業では、最先端の研究のみに没頭することが出来て、自分の下にテクニシャンもついていて、自分がやりたい研究を手伝ってもらえるという、恵まれた環境で研究できました。企業人としての出世、という意味では男女の壁は厚く不遇でしたが、研究者としては、あまり利益と関係の無い基礎的な研究をさせてもらえたことは幸せなことだったと思います。そしてまた大学に戻ってきて、研究者として働くことが出来ています。大学に戻ったのは、最初の5年間大学にいたこともあり、やっぱり大学に戻ってきたいと思っていたからです。研究費の獲得や雑務等、大学ならではの研究環境の大変さはありますが、学生さんと一緒に研究の話をしている時間は本当に楽しくてかけがえの無いものですね。

【研究の面白さ】

ヨーグルトの乳酸菌を研究しています。ヨーグルトは2種類の乳酸菌が“共生”をして初めて出来る「発酵乳」という食べ物です。ひとつの菌だけだとヨーグルトが上手く出来ない。そこで、共生にどんな遺伝子が関わっているのか、というのを探るのが研究室のメインテーマです。乳酸菌の株によってヨーグルトを作る能力はそれぞれ違い、また組み合わせによっても違ってきます。いわゆるプロバイオティクスヨーグルトも土台となるヨーグルトはこの2つの乳酸菌(スターター)が作っているのですが、海外のスターター会社から購入している企業が殆どで、開発の必要が無いためもあり日本で本腰を入れてスターターの共生の遺伝学に専念しているのは、我々明治大学だけです。ちなみにヨーグルトは、たとえばコンビニでプリンやゼリーなんかと並べて売られていますが、スプーン1杯の中に10の7〜8乗という数の生きた乳酸菌が入っているという不思議な食品なんです。生きた乳酸菌を食べると言うことは腸にいろいろな刺激となって働きかけるので、ぜひみなさんに召し上がっていただきたいですね。法律で、出荷される時の菌数の下限が決まっているので、そういう意味ではどのメーカーのものでもいいと思いますよ。研究は、未知のことを自分たちで実験して発見していくという面白さがあります。ノーベル賞をもらえるような仕事じゃなかったとしても、小さいことでも、真実が分かったり、新しいことが分かったりする。こんなに面白い仕事は無いと思います。

【学生・若手研究者へメッセージ】

理系に関していえば、女子こそ大学院に進学するべきだと思います。同じ学部卒で企業に入社したら、封建的な企業体であればあるほど、女性は男性の下につくことになります。大学院に進学していれば、企業も実力とそれなりの覚悟を感じると思います。それから、思うような結果が出なかったとしても「失敗しちゃった」と卑下して、自分で抱え込まないこと。思ったような結果が出ないところから新しいことが分かったり、失敗から次の方法が見えてきたりするものです。研究室でもコミュニケーションをとること、失敗したことも全部報告して話し合うことを大切にしています。また、タイトルにもあるように「低空飛行でもいいから飛び続けてください」と言いたいですね。研究というのはどれだけやっても限りが無い、どれだけやっても十分な事は無いのですが、自分の人生の中では子供を産んだり、パートナーが転勤したり、親の介護だったり、いろんな出来事が起きますよね。仕事、研究に打ち込む時間が少なくなる時もあるかもしれないけれど、一時的に自分の出来る範囲が限られて低空飛行になる時があるかもしれないけれど、それでも諦めずに続けることが大事だと思います。