堤 利幸

Home  >>  刊行物について  >>  ロールモデル集  >>  堤 利幸

※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。

堤先生記事

面白がって打ち込んでみると人生が面白くなる

明治大学理工学部 教授 堤 利幸

【社会に出るまで】

私は普通の子供だったと思います。文系、理系の科目、どれも好き嫌いはなかったのですが、文系科目は暗記しないといけない科目、理系科目は暗記しなくても考えればよい科目と思っていました。知識を獲得することは重要と思っていましたが、文系の科目に面白いと思ったことはありませんでした。今にして思えば浅はかなことです。暗記するより考える方が面白いですから、大学は理系に決めました。明治大学工学部(現在の理工学部)に進学して、何をするにしても社会の役に立つことが良いなと思い、電子回路研究室で点字情報処理システムの開発研究をしました。視覚障害者も使うことのできる音声ワープロの研究です。大学院では学部時代の受け身の勉強とは違い、能動的に研究を進めていくことが要求されるので、社会に出てもやっていける力を身につけけることができました。

【エンジニアに】

マイクロプロセッサの仕事ができる電気メーカに就職しました。そこではじめてマッキントッシュを見て、こんなすばらしく使い勝手の良いパソコンがあるのかと感動したのを覚えています。本当に優れた仕事は「人を熱くするすばらしい芸術」と同じだと考えるようになりました。主にマイクロプロセッサの設計開発に従事しました。高速なマイクロプロセッサを設計するには、設計者がプロセス技術(製造技術)を理解することが重要だと思い、異動を願い出ましたが、大きな組織ですから、なかなか希望通りはいきません。

【再び学生に】

そこで、思い切って大学の博士過程に入学し、プロセス技術の研究をする決心をしました。大学に戻って先生になるという話ではありません。今から大学生になるなんてバカだよという人もいましたし、応援してくれる人もいました。そのまま会社にいるよりも、やりたいことをやって打ち込める方が断然面白いと考えたのです。ここが間違いなく私の「人生のターニングポイント」です。明治大学の博士過程の学生になり、冨澤一隆先生(現名誉教授)の指導のもと,電子技術総合研究所(現在の産業総合研究所)で技術研修生としてトランジスタ作製のプロセス技術の研究をしました。顕微鏡もまともに使ったことのない素人の状態から始めましたので、苦労することも多かったですが、新しい友人もでき、何もかも面白ことばかりでした。

【大学教員に】

その後は幸運にも明治大学に採用して頂きました。今までの経験を活かして,Green IT (地球環境にやさしい情報科学技術)の理念のもとに、デバイスからコンピュータまでシームレスに研究をしています。微力ながら社会に役立つ研究をしていきたいと思っています。大量製造しても特性がばらつかないナノデバイスの研究、電力をほとんど使わなくて済むFPGA(プログラムできる集積回路)の研究や、ユーザがさせたい特定の処理を高性能に実行可能なプロセッサを簡単に設計できるアーキテクチャツールの開発などをしています。未知の分野に光をあてて道をつくっていくのが研究です。研究を進めていくと「どうしてそうなるの?」「なぜ、うまくいかないの?」と『疑問論難、やむ時なし』です。そんなときでも諦めないで面白がって打ち込んでみます。一歩前進することもあれば後退することもあります。研究はとても地道なもので、格闘しながら一歩一歩進めていくものなのです。しかし、ある程度の前進ができるととても大きな達成感や充実感を味わうことができます。今最も興味のあることは、経済の世界を情報科学技術で理解し分析することでもっと世の中がよくならないかということです。子供の頃は、文系の科目に面白みを感じませんでしたが、打ち込んで勉強して理解を深めていくと何だって面白くなっていくもんだなと感じます。

【プライベート】

休日は愛犬ソフィーにせがまれて近くの海岸を散歩します。潮風に吹かれて心身ともにリフレッシュでき癒されます。また明日からがんばろうと思えてきます。歳をとってくると「緊張と緩和のバランスがとても大切」とつくづく感じます。若い皆さんは無計画に力任せに突き進んでも頑張りが効くと思いますが、若い時にバランス感覚を身に着けると、一生の財産になると思います。

【学生さん、若手研究者さんへ】

評論家の小林秀雄さんが講演の中で、本居宣長(国学者)さんが弟子たちに学問はどのようにやったらよいかを教えてくれとせがまれて書いた「ういやまぶみ」(初山踏)という本を紹介しています。『宣長さんは本当はどうやったら学問ができるかなんかちっとも言いたくないんですよ。「ういやまぶみ」の最後に<いかならむ ういやまぶみの あさごろも あさきすそのの しるべばかりも>という歌があります。「学問(はじめて山に登ってする修行)の方法を問われ、学ぶ(登山)にあたって(初山踏に着る粗末な麻衣にかけて)本当に浅い山裾のことを書いただけなんだ。浅く拙い私の考えでも初山踏みの裾野の標(しるべ)にはなるだろう。しかし、どうであろうか。方法論以上に大切なことは倦まず弛まず学び続けることではないか。」と言いたいんだよ。』私もその通りだと肝に銘じている言葉です。倦まず弛まず学び続けるために、面白そうなことを見つけて打ち込んでみたらいいと思っています。何でもいいんです。さらに面白くなってきてあなたの人生が面白くなってくるんじゃないでしょうか。是非、心にゆとりを持てるようにバランスをとりながら、人生を面白くしていってください。そして社会に役立つ人材になってください。