源 由理子

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※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。

源先生記事

仕事の変遷と現在まで~その都度興味のあることに舵を取る

明治大学専門職大学院ガバナンス研究科 教授 源 由理子

【社会人としてのキャリアのはじまり~そのきっかけ】

私はこれまでに4回職場を変えて来ました。自分の頭の中ではこれまで30年以上にわたりやってきたことはつながっているのですが、職場の種類だけ見ると、国際協力の実施機関(JICA)、研修・研究機関、世界銀行やNGOのコンサルタント、そして今は大学と多様です。卑近なたとえですが、契約書でいうところの「甲」も「乙」も経験し、社会で仕事を遂行する上での立場の違いを経験してきました。現在の私の立場は、「研究の場と実践の現場を繋ぐ」ところにいると思っています。20代に「国際協力」の分野へ関心をもつようになったのは、高校生のときに1年間、アメリカに留学したことがきっかけです。1970年代半ばに、日本人が周りに一人もいないアメリカの田舎で交換留学生として1年間の高校生活を送りました。たった1年ですが、これまでの人生の中で最も濃い経験をしたと今でも思っています。見ず知らずの高校生を家族の一員として迎えてくれるアメリカのホスト・ファミリーの寛容さに感銘しました。一方で、当時のアメリカにあったアジアに対する優越感のようなもの(ともすると差別につながる)を感じることもありました。日本の外に身をおき日本を外側から眺める機会を与えられたことで、様々なことを考えさせられました。特に、日本人である私たちも同様に、他のアジアの国々に対する優越感を持っているのではないかという点。どこの国に生まれるのかは誰も選べないのに、なぜ差別があるのだろうかという大きな疑問。こんなことを考えた経験が、大学では日本思想史と日本の対アジア政策へ興味をもつことにつながり、キャリアの第一歩であるアジア諸国への国際協力の仕事につくきっかけになったと思っています。その後、日本のODA政策の実務経験を経て、研修・研究機関で政策や事業の評価に関する調査・研究に携わるようになりました。その中で海外の研究者やコンサルタントと交流をもち、共同研究や論文発表を行ったことが、現在の専門分野である「評価論」、「社会開発論」につながったと思います。

【教育の現場で心がけていること】

現在私が所属している研究科は専門職大学院ガバナンス研究科です。公共政策大学院として、日本人学生は現職の議員、公務員が7割をしめています。また英語コースではアジア諸国を中心とした中央政府の行政官が40人ほど学んでいます。まさに現場で政策や事業の実践をしている人たちです。その経験豊かな人たちを相手に、私自身がどのように役に立てるのだろうかと日々頭をひねっています。現場で仕事をしている人たちは、無意識のうちに自分たちの仕事の振り返りを繰り返しています。それは、彼らは課題が何かを知っているということを意味します。一方で、それらを体系的にとらえ、次のアクションを起こす(改善につなげる)ためには、客観的な視点や理論に対する理解が必要になります。そのような応用社会科学のアプローチを中心とした授業を心がけています。

【現在の研究の魅力~社会の改善のツールとしての評価論】

日本の大学や大学院では「評価論(Evaluation Research)」を教えるところはまだ限られています。アメリカにおいて1960年代から盛んになってきた評価研究は、教育、保健・医療、福祉、雇用、都市計画等の分野における社会政策や事業を評価する理論と方法論の研究です。したがって、多くの分野の研究者とつながっていくことがとても重要なのです。現在、私が関わっている研究プロジェクトや研究会は、自治体の行政評価、精神医療分野、非営利セクター(NPO)、社会的インパクト投資(民間資金活用による公益活動)と多様な分野にまたがっています。いずれも、各分野における評価のあり方を論じるもので、他分野の研究者や実践家との議論はとても刺激的ですし、魅力的です。自分自身も他分野について多くを学ぶことができますし、同時に日本に「評価論」を根付かせていくための、将来を見すえた挑戦でもあると思うからです。特に、今私が取り組んでいる協働型評価は、評価対象である政策や事業の利害関係者と協働で評価を行うというものです。それは、従来の評価する側と評価される側が二つに分かれる評価とは異なり、関係者が一緒に価値基準を選択し、調査をし、評価を行うという方法です。この方法への期待は、評価をとおして関係者間の関係性構築や学びに貢献し、当事者意識を高め、評価の本来の目的である「社会の改善」により結びつくのではないかという点です。民間企業も含め、NPOや様々なアクターが社会の問題解決に挑んでいく時代であるからこそ求められる評価論ではないかと思っています。

【学生・若手研究者へのメッセージ】

冒頭に述べたように、4つの職場を経て今にいたる私のキャリア・パスは、最初から描いていたパスではありません。また、「30年後にはこうなっていたい」という目標のようなものもありませんでした。その都度、自分の興味・関心を優先して舵を取ってきた結果が今です。また、男女共同参画の関連でいえば、女だからといって損をした経験はあまりありません。私自身は男女雇用機会均等法の前の世代であるので、最初から女性が不平等に扱われる職場を自分から避けてきたということもあるかもしれません。また、英語を使った国際協力の仕事はなぜか女性が多いことも要因としてあるでしょう。その意味では恵まれた環境だったのですが、キャリアを積んでいくうちにひとつだけ感じているのは、誘われた研究やめぐり合った仕事を丁寧にこなしていくと自分の関心領域と合致した新たな展開がみえてくる、ということです。そして、今、実際にみえてきています。研究者としての出発が遅い私としては、今が一番、研究の仕事の面白さを実感しているときかもしれません。私自身は「夢を持つこと」よりも、今、関心のあること、自分自身で問題と感じること(他の誰かに言われたのではなくて)に従い、もがいていくことの方が大切だと思っています。夢に振り回されることなく、今のこの時を生きることの方がおもしろいと実感しているからです。この原稿のタイトルにかかげた、「その都度興味のあることに舵を取る」とは、自らの興味のアンテナと他者からの発信が期せずしてつながったときに可能になるように思います。これからも新しいアンテナを高く立てながら舵を取り、もがきながら仕事を楽しんでいきたいと思っています。