荒川 薫

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※本ページ記載の役職は作成日現在のものです。

荒川先生記事

自分のやりたいことを諦めないで生きてきました

明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科 教授 荒川 薫

【学生時代】

高校の頃から数学や物理に興味があり、東大に進学後、理学部か工学部かで迷った末、「アイディアをものにしていく」ことのできる工学部の電子工学科に進みました。歴代6番目の女子学生でした。同大学院工学系研究科へ進学後,米国カリフォルニア工科大学への留学(フルブライト奨学生)を経て、86年博士課程を修了し工学博士を取得しました。大学院時代は、情報通信工学、特にディジタル信号処理の研究を行いました。米国では、その脳波解析への応用について研究しました。学会に行くと、ほとんど女性がいませんでしたが、特に困ったことはありませんでした。ただ、何かと珍しがられました。大学院の博士課程一年のときに、結婚しました。研究が実験系ではなかったので、大学に夜遅くまで残る必要がそれほど無く、研究の合間に家事をしたりしていました。

【社会人時代~現在】

大学院博士課程終了後は、日本学術振興会の特別研究員になり、その後、大学院の恩師から助手としてのポストがあるとのお誘いをいただき、東大工学部の助手になりました。しかし、そこには長くはいられないので、その後のポストを探しました。私は、比較的自由に自分の好きな研究ができる大学の教員になりたいと思いましたが、当時は女性が大学の教員になることは非常に珍しいことで、しかも小さな子供がいたこともあり、なかなか採用してくれる大学はありませんでした。しかし、その当時、世の中はIT時代の幕が開けようとしていた頃で、大学では情報系の学科が各所に新設されました。そうなると、各大学では情報系の博士号を取得している研究者を数多く教員として迎える必要が出てきたわけです。明治大学でも1989年に工学部が理工学部になり、情報科学科が新設されました。そこで私にも声がかかり、何とか専任講師に就くことができました。その後は、保育園とベビーシッター、さらに学童保育の助けを借り、研究業績を上げて92年より助教授、98年より教授になり、2013年より明治大学総合数理学部先端メディアサイエンス学科に教授として移籍しました。1994年には、長男を連れて、米国カリフォルニア大学サンタバーバラ校で在外研究を行いました。息子は現地の小学校に通いましたが、そこでは、大学に学童保育のようなところがあり、そこのお世話になりました。日本に帰ってからは、次男も生まれ、また保育所とベビーシッター等のお世話になりましたが、その頃は、パソコンの小型化・高性能化とブロードバンドネットワークの普及のお蔭で、自宅に居ても研究ができるようになり、長男の頃に比べて随分楽になったと思ったものです。

【研究内容とその魅力について】

私の専門はディジタル信号処理です。特に画像や音響といった人が知覚する信号をコンピュータで解析し、そこから情報を引き出す、あるいは加工する研究を行っています。情報通信工学の分野では、信号を数学モデルで表し数学的な基準の上で最適な処理システムをいかに設計するかについて多くの成果が生み出されてきました。しかし、画像や音声など人が知覚する信号に対し、数学的処理だけでは、その信号に対する人の知覚や主観評価を考慮することができません。今、人の知覚や主観評価をも考慮する新しい信号処理について研究を行っています。特に、2000年ころから、写真で撮った人の顔に対し、顔のしみやしわ、くすみなどを無くして見栄えを良く仕上げるディジタルエステを研究しています。これは、肌の成分を分類し、調整をかけて、しみやしわにあたる部分を除去します。また、顔の輪郭や陰影をはっきりとさせる処理を行い、エステで肌のキメを整え顔を引き締めたように見せる画像処理を開発しています。このベースは顔及び肌の数理モデルなのですが、肌や顔の各成分をどのように処理するかで、人の知覚と主観評価を考慮します。この技術は、企業とも共同研究してスマートフォンアプリとして公開され、また、プリクラのような機械でも使われています。音楽についても、人の聴覚特性を考慮して、著作権などの付帯情報を音楽信号にわからないように埋め込む方法について研究しています。音楽信号に情報を付加すると、音が少し変わって、場合によっては不快な音になりますが、人が心地よく聴けるように音信号を操作することで、音楽の美しさを損なわないで情報を埋め込むことができます。最近は、人が最も好むデザインをどのように計算機で推定するかについて研究しています。これも、最適推定論という数学的手法が基になるのですが、そこに、インタラクティブに人がコンピュータと関わる技術を導入することで、その人の主観評価を考慮したデザインの最適化を実現できるようになります。研究の魅力は、世の中に無い新しくて画期的なものを実現し、それを多くの人達に使ってもらって人々に快適で精神的豊かな生活をもたらすところにあります。特に、人の心理や感性を理解し、人が好むデザインや望ましい特性を提案してくれる人工知能を実現できたらと思います。

【学生・若手研究者へのメッセージ】

これまでの自分の生き方を振り返って言えることは、自分にやりたいことが有れば、その実現が困難な状況であっても、簡単に諦めるべきではないということです。その時は、それが非常に奇異で的はずれなことであっても、時代の方が変わるのです。今、誰もが非常識と考えることが、何十年後には常識となっていることがいくらでもあります。私も電子工学科に進んだ時に、なぜ、女子なのに、そんな分野に進むのかとよく言われましたが、今は女子が工学部に進学しても、何か言う人はいません。むしろ、この分野で女性が少ないので、重宝されています。また、ほとんど女性の大学教授がいなかった頃に大学の教員になりたいと思っていたら、いつのまにか時代が変わって、女性が大学の教員になりやすい時代になっていました。このように、諦めないでいると、いつのまにか世の中が変わって自然に問題が解決することがあるのです。